ぴよこの体験記

美容にファッションに家電、少しでもお得にいいもので生活したいアラサー主婦の口コミブログ。

オタクのすれ違い

オタク全盛期は推しを追っかけてよく遠征していました。色んなところでイベントを開催していたので、東京、横浜、大阪の主要都市のほかにも東北や四国、九州、時には河口湖などの山奥で開催することもあり、私の旅行に対するフットワークは大分軽くなりました。

追っかけていた推したちも東京にいる時はガチっとセキュリティーが固められているけど、地方に行くとゆるっと観光するような界隈だったのでイベント後に観光していると「推しと遭遇した」なんてことも割とありました。勿論見かけても騒がず話しかけず、Twitterで表立った共有もせず、観光地にはしっかりお金を落とすファンが多かったので、ガチガチに固められることなく続いていたんだと思います。

私も推しの視界に入るなんて恐れ多い…むしろ接触イベント(握手会や会話できるイベント)はできる限り避けたい派の陰のオタクだったので、見かけてもそっと目をそらして見なかった振りをしていました。

今回はお題「今だから話せること」になぞらえて、私が過去に経験した遠征での出来事の話です。

 

ある日、名古屋へ日帰りでライブに参加しました。ライブの時の制服であるライブTシャツを着て、これまたライブグッズであるリュックを背負って。行き道は私服で行って名古屋駅周辺を観光し、ライブ前に着替えて参戦。日帰りだったので着替えずにそのまま新幹線に乗って帰ろうとしていました。

ああー今日も楽しかったなぁと現実ですり減ったものが満たされていく充足感に浸りながら新幹線に乗る前に名古屋駅でお土産を選んでいた最中。

通りました、推しご一行。

楽器を背負った黒ずくめの集団がライブ帰りのオタクや一般の方が闊歩する構内を足早に通り過ぎていく。どうみても重装備で一般観光客ではない風貌なので目立つ目立つ。どうやら推したちも日帰りで東京へ帰るようだ。

私は逆方向の新幹線に乗るので、その後どうやっても駅構内で遭遇することはない。ああ今日も楽しい時間をありがとうございましたと心の中で唱えながら、何事もなかったかのように見なかった振りをする。

接触はしたくないけど、帰るところを見れてラッキーだったなぁという気持ちはあるので、ほくほくしながら新幹線の待合室へ向かって空いている席に座った。

反対のホームに赤いTシャツを着た人をいつも以上によく見かける。さっきまでライブ会場にいたオタクか?と思ったが、どう見てもオタクの種類が違う。界隈が同じオタクの匂いってなんとなくわかるもので。気になったので手持ちのスマホで調べてみると、近くで野球の試合があったようだ。偶然なことに球団カラーが赤で私が入っていたライブもメンバーカラーが赤の人のライブだった。両者のファンで新幹線のホームには赤のグッズを持ち、赤に身を包んだ人が異常に多くなっていたのだ。

別界隈の同じイメージカラーの人たちが同じ日に近くでイベントがあるなんて、こんな日もあるんだなぁ。

 

待合室に入ってしばらくすると、ざわざわとした声とともにやたら体格のいい黒スーツを着た外国人が数名入ってきた。

え、お、こわ。

黒スーツの外国人たちが待合室の扉をくぐる姿は座っている身からすると巨人のよう。早口の英語が飛び交う様子は妙に迫力があり、ATフィールドを貼られているかのような圧迫感で待合室が急に狭くなったように感じる。もし何かトラブルがあって尋ねられても答えられる自信がない…といらぬ不安を感じながら私は身を縮こまらせた。後から合流してきた外国人がそんな私の姿を見て、一瞬後ずさったような気配を感じる。

え、今引かれた?なんで私が引かれるの…そりゃライブTシャツ着てオタク丸出しかもしれんけどさと思わず外国人の方を見上げて目が合い、しまった!と目をそらしてスマホに食い入る。

しばらくして後ずさった外国人が隣へと座ってきた。先に来ていた黒スーツたちがその人を囲んでノンストップで英会話が始まる。

座るんか…そして横に座られると背が高くてがたいが良いのがめちゃくちゃわかるな…。再度展開されるATフィールドに一気に居心地が悪くなるのを感じながら、向かいのホームに目をやると恐らく野球ファンであろうグループがこちらをガン見している。えっと反応した私が伝わったのか、突然興奮した様子で右!右!!と指をさしてくる。つられて見るとあの外国人の団体。

 

思わず首をひねる。

もしかしなくても、身長が高くてがたいが良くて野球ファンが反応するって隣の団体は外国人選手か関係者なのか!?…申し訳ないけど陰のオタクは野球全然知らんぞ!!そしてなんで私に教える!?一般人がみんな野球選手知ってると思うなよ!の意味を込めて首を横に振ろうと顔を上げて彼らを見た瞬間気づいた。

私も彼らと同じような真っ赤なTシャツを着ていたことを。反対側のホームから見るとライブの赤Tシャツにリュックを抱いている姿は野球ファンのそれと変わらない。彼らは私も試合に見に行くようなファンだと勘違いし、教えてくれようとしたのだ。

そう考えると、入ってきた外国人が一瞬私に警戒したのもうなずける。傍から見ると球団ファンの出で立ちだったのだ。挙動不審だけど、話しかける気配もなく存在を消そうとする姿を見てこいつファンと違うなと判断されたのであろう。

 

全てを理解した私は、なんかごめん、違うんやの気持ちを込めて首を横に振った。

向かいのホームにいる野球ファンたちがどう受け取ったのか、満足気にうんうんとうなずき去っていった。絶対伝わってない。

外国人選手たちも新幹線の時間がきたのか、待合室から出ていった。

 

息を吐いて背もたれに寄りかかる。いや、こんなすれ違いコントみたいなことある…?アンジャッシュですか…?

誰かに話したいけれど、Twitterに書くのは憚れるしわざわざ友達にLINEして説明するのも長文になるし…と思い、結局私の中でゆっくり消化させることにした。多分8,9年くらい前のことだけど、今でも鮮明に覚えている。

私にとってその日はライブ帰りに推しを駅で見かけた日、そして野球選手の隣に座り、野球ファンって優しいんだなと一つ偏見がなくなった忘れられない日になった。

 

 

特別お題「今だから話せること

 

 


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